関東のラーメン屋の海苔の虐待について

「チーム・ラーメン」における海苔という存在について一言言っておきたい。

あまり関西では見かけないように思う。(ラーメン通ではないので確証はないが)ラーメンにトッピングされる切り海苔である。

その存在に疑問を感じる、というのがこの一文の趣旨である。ほんとうに海苔が必要なのか。いや、ラーメンというチームを構成する一員として、海苔を加えるというのは、ある種虐待ではないか、とそんなことを考えるのである。

海苔には罪がない。海に囲まれたわが日本の素晴らしい食文化の一つである。おにぎりに海苔は何が何でもいてほしい。揚げ出し豆腐にはぜひとも刻み海苔が散っていてほしい。ノリ茶漬けには、ぜひとももみ海苔が豪快にかかっていてほしい。

くりかえし言う。筆者は海苔が好きである。

だからこそ言いたい。ラーメンに海苔は必要なのか。生かされているのか。なでしこジャパンアニマル浜口が帯同しているような違和感を感じるのは私だけなのか。

ノリの特性はなんといってもその「パリパリ感」である。自在に細かくできるのはその乾燥時のパリパリ感があってこそである。ゆえにもみのりがなくても、そこにノリがいてくれさえすれば、ものの数秒で、そぼろ丼にのりを散らすことができる。

ノリの特性の二つ目は、液体に振れればすぐに海に帰るということである。たちまちにして、養殖網でじっくりじっくりと成長していたあの海にいたころの海藻に戻るということである。

さいころは毎夏長期間泊まりに来ていた孫が、大学を卒業して就職し、スーツ姿で祖父母のもとを訪れる。涙を浮かべた祖母が

「あー浩一や、すっかり立派になっちゃって」

とまぶしそうに目を細める。しかし、一風呂浴びて、おじいさんのランニングシャツを借りて、縁側でスイカにかぶりつく浩一を見ると、口のまわりをすいかの果汁だらけにしてむさぼり食べている。

「あー、やっぱりあの浩ちゃんだねえ。変わってないねえー」

という「すっかり立派になっちゃって」でも「やっぱり昔のままだったんだねー」というのが、「パリパリ海苔、海に還る」を食するたびに筆者の脳裏に浮かぶドラマの一場面である。

おにぎり海苔は、時間とともにご飯と一体化している。海苔茶漬けのノリは、お茶とお米の海に散会し、どこを食べても海の風味を醸し出す。どちらも実にいい仕事をしている。

しかし、ラーメンの海苔は違う。出てきた瞬間だけはパリッと立っている。がよく見ると、スープに浸っている根元はぐだぐだに泥酔しているかのように情けない。

ほかのトッピングと比べると一目瞭然である。シナチクやチャーシューは時間とともに温まり、だしがしみこみチームの一員としてなじんでいく。しかし海苔は違う。時間とともに、なさけなく泥酔し、小さく固まってしまう。これが刻みネギのようにスープ全体に展開し、そのシャープな味わいで濃厚なスープにくさみ消しときりっとした触感を加えていくならわかる。

しかし、海苔は面積がどんどん小さくなっていく。もやは登場時のぱりっと感はかけらもなく、シート状だった見てくれはぼろぞうきんのようになり、箸で触れるほど丸まっていく。乗りの佃煮のように熱処理がされていないせいだろうか、固まったらほどけない。

刻まれているなら、全体に展開して、ほかの食材と協働してはたらくという手もある。しかし、一枚ものの海苔は、完全にチーム・ラーメンの中で浮いている。孤立している。

そんなに海苔の風味がラーメンに合うと思っているなら、らーめんやはもみのりが刻みのりを振りかけて出すであろう。

しかし、濃厚豚骨スープなどの動物性スープをメインにしているところへ、海藻系海の風味というのは全面的に採用するには個性が強い。

だからラーメン屋は、もみのり、刻みのりを採用しない。同じラーメンどんぶりの中にいかにもチームの一員のように配置しておきながら、心の底では「とんこつスープの邪魔をしてくれるな」と切り海苔一枚をふちに立たせる。たちまち情けないほどなえてしまうことを知りながらである。

海苔は悪くない。しかし、このチーム編成では、海苔は時間とともに邪魔になっていく。ノリの悲劇を見たくなければ、ラーメンが出てきた瞬間にすぐにレスキューするしかない。

下半身がすでにどろどろに溶かされた半身不随のノリである。そのままにしておくと、調和を乱すばかりの立場に追い込まれる海苔である。

私は、ラーメンの中に入っているものを私の食べたい順序で食べたい。もちろん料理によって、「おいしく食べるための順序」が決まってしまうものがあるのは承知している。それには喜んで応じる。

しかし、客前の登場時に、なんとなく見てくれがいいからという理由だけで添えられた海苔を、最初にレスキューしないといけない、という食べ方が強制されるラーメンは嫌いだ。そういう海苔の心無い扱いをするラーメン屋は嫌いだ。

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